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キャッシュフローに着目する

(2015年10月28日の発行記事です)
今回は、キャッシュフローに着目した経営についてご紹介します。

皆さんは企業の業績や経営状況を判断する指標として何を思い浮かべますでしょうか。経理経験の有無に関わらず、売上高・売上総利益・経常利益・純利益といった財務指標はすぐに思い浮かぶところですし、売上総利益率(粗利率)やROE(株主資本利益率)といった指標は比較的馴染みが深いと思います。

その一方で、企業のキャッシュフローに着目される方は少数だと思います。月次決算などにおいて財務諸表のひとつとしてキャッシュフロー計算書は作成しているものの、一般的に貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)と比較して、その中身を深く考える機会は少ないのではないでしょうか。

それでは、まずキャッシュフロー計算書と貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)との相違点を考えてみます。

◆利益を生むこととキャッシュを生むことの違い

貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)はAccrual Basis(発生主義)で作成されているため、実際には現金の収支が伴わなくても、収益や費用が計上されます。例えば、2015年3月末に商品在庫を販売して、その販売代金を4月以降に回収した場合、売上高は販売時(2015年3月)に計上されますが、販売代金の回収時は4月以降となるため、収益の計上と現金の収支のタイミングがずれてしまいます。

そのため、利益が出ているからといって、必ずしもその分のキャッシュがあるとは限りません。会計上は黒字であっても企業は倒産することがあります(いわゆる黒字倒産)し、逆に会計上は赤字であっても存続している場合もあります。倒産するかしないかは、会計上の利益ではなく、資金繰りがつくかつかないか(キャッシュフロー)がポイントになります。

また、一般的にキャッシュフローの特徴として、以下の点が挙げられます。

1. 会計上の損益は各国の会計基準や企業の会計処理方法によって変化するが、キャッシュフローは一定の客観性を持つ。
2. 貸借対照表(BS)は資金の動きの「結果」、損益計算書(PL)はその「原因」を示すのに対して、キャッシュフローはこれらの「プロセス」が把握できる。

◆なぜキャッシュフローが大切なのか

企業が作成するキャッシュフロー計算書において、キャッシュフローの種類は以下の3つに分けられます。

1. 営業活動によるキャッシュフロー
会社の本業(主要な活動)によるキャッシュの増減を表します。

2. 投資活動によるキャッシュフロー
設備投資(工場建設・機械購入など)や余剰資金の運用(企業買収・株式購入など)によるキャッシュの増減を表します。

3. 財務活動によるキャッシュフロー
資金調達(出資・借入など)や、借入金返済などによるキャッシュの増減を表します。

上記3つのキャッシュフローの内容についてはご存知の方も多いと思いますが、それぞれのキャッシュフローの組み合わせ(+/-)に着目することによって、企業の大まかな経営状況を推測することができます。

◆企業のライフサイクルとキャッシュフローのパターン

Victoria Dickinson, PhD, CPA (University of Mississippi) が2010年に発表した論文「Cash Flow Patterns as a Proxy for Firm Life Cycle」によると、企業のライフサイクルは(1) 創立期、(2) 成長期、(3) 成熟期、(4) 淘汰期、(5) 衰退期の5つに分けられ、それぞれの時期において企業のキャッシュフロー計算書における「営業活動によるCF」「投資活動によるCF」「財務活動によるCF」に一定のパターンがあるといわれます。

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(1) 創立期
• 営業CF (-):会社設立当初は経営が軌道に乗っていないため、まだ本業では稼げない。
• 投資CF (-):大幅な先行設備投資が必要。
• 財務CF (+):親会社や金融機関などから設備投資に必要となる資金を調達する。

(2) 成長期
• 営業CF (+):経営が軌道に乗り、本業で稼げるようになる。
• 投資CF (-):さらなる事業拡大に向けて設備投資を継続する。
• 財務CF (+):引き続き、設備投資に必要となる資金を調達する。

(3) 成熟期
• 営業CF (+):本業で安定した収益を獲得でき、資金繰りも安定する。
• 投資CF (-):新たな投資機会を持って、積極的な新規投資に資金を投入する。
• 財務CF (-):余った資金で有利子負債を圧縮し、財務体質を改善する。

(4) 淘汰期
• 営業CF (+/-):本業で安定した収益を獲得でき、資金繰りも安定する。
• 投資CF (+/-):新たな投資機会を持って、積極的な新規投資に資金を投入する。
• 財務CF (+/-):余った資金で有利子負債を圧縮し、財務体質を改善する。

(5) 衰退期
• 営業CF (-):本業で収益を獲得できず、事業の縮小も余儀なくされる。
• 投資CF (+):本業が振るわないため、不要な設備等を売却して資金を回収する。
• 財務CF (+/-):有利子負債の返済や財務面のリストラを実施する。

なお、ここではキャッシュフロー計算書における各キャッシュフローのタイプにフォーカスしてご説明しましたが、実際には企業の経営環境や戦略等を考慮した判断が重要になります。

◆企業の継続的な発展・成長

このように企業が成長期から成熟期を迎えると、本業での収益が安定してくるため、次第に新たな投資は控えるようになり、そのための資金調達も減ってくると考えられます。この時期はキャッシュフローも潤沢になりますが、経営改革などが実施されないままだと、市場に競合企業の新規参入や技術革新などが起こった際に、本業での利益率の低下や収益の減少に直面し、やがて淘汰期から衰退期に入ってしまいます。

そのため、ある程度の余裕資金を確保しながらも、新たな投資機会に対して積極的に投資する、又は、有利子負債の返済や配当などの財務体質の改善を実施することで、淘汰期から衰退期を脱却する必要があります。キャッシュフローの観点からは企業の継続的な発展・成長のためには、企業のライフサイクルにおける各ステージによって、「どのように必要な資金を調達するか」と「どのように獲得した資金を分配するか」の両方のバランスを取ることが大切です。

参考文献
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=755804
http://www.bizfilings.com/toolkit/sbg/finance/cash-flow/cash-flow-and-profit.aspx


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